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お知らせ(トピックス)

【2025.11.28】春名学長、学部・大学院一貫に向け「産学連携」へ協力呼びかけ

 東京外語会事業委員会は2025年10月4日、4月に就任した東京外国語大学の春名展生学長と卒業生を含めた経済界関係者らが「産学連携」の強化に向けて話し合う懇談会を東京・六本木で開催した。春名学長は将来の学部と⼤学院の5年一貫制への移行を視野に入れ、大学院修了後の学生の受け皿となり得る企業・機関との産学連携や共同研究を進めることを目指していると表明。経済界関係者らとの協議を重ねることで「具体的な連携や、協働事業を作っていけることができるのではないかと期待している」と訴えた。

 春名学長は冒頭で、現在の東京外大の状況について「本当に今後の存続が危ぶまれるような状況にあり、それには短期的な課題と、中長期的なものがある」と警鐘を鳴らした。短期的な課題は「学部の志願者数が大幅に減っていることだ」とし、今後も「18歳人口は特に2029年以降はストレートに、それもかなりの勢いをつけて減っていく」と危機感を表明。対策として「学部の志願者が減り、大学の修士課程に進まないという問題に一括して対応していくことを考えている」と明らかにした。
 具体的には「とりわけ国立大学は学部よりも大学院の部分に重心を置くように変わっていく」ことを踏まえ、将来の学部・大学院修士課程一貫制への移行を視野に入れて「定員を学部から大学院へ移し、学部の定員を減らす一方で、大学院の定員を大きくしていくことがまず必要だ」との考えを示した。
 大学院への進学者を増やすためには「大学の学びが社会とつながっているとか、大学で学んだことが大学を出た後に大学外で仕事を持った場合にも生きるとかいうことを学生がもう少し認識できれば、大学でも一生懸命勉強するし、大学院にも行くように流れを変えられるのではないかと考えている」と解説した。
 取り組みの一環として、「学生のキャリアシップに応えられる教育をまずは大学院から、さらには学部の方に入れていくことができれば、大学および研究の持つ意味を社会の中で維持していけるのではないか」と強調。就職先となり得る機関や企業が「どのようなスキルや能力の養成を求めているのかや、東京外大の教育にどのように関わってもらえるのかを話し合えると、議論を通して具体的な連携や、協働事業を作っていけることができるのではないかと期待している」と語った。

 ANAホールディングス傘下の格安航空会社(LCC)、ピーチ・アビエーションの前社長で、現在はANA総合研究所副社長の森健明氏(英米語1987年卒)は、ANA総研の産学連携の取り組みについて「2025年4月1日時点で講師を派遣した実績は東京外大を含めて92校あり、提携校は全国の大学49校ある」と紹介。
 一例として神戸市外国語大学で今年実施したプロジェクト・ベースト・ラーニング(PBL、課題解決型学習)は、神戸空港の国際化を糸口とした地域活性化に貢献できる全日本空輸(ANA)のビジネスモデルについて提案してもらったと解説した。
 また、連携協定を結んだ東京農業大学を含めた理系の大学とは「ANAが提供する機内食の共同開発や冷凍技術の導入、生鮮品を海外に新鮮な状態で持っていくための輸送技術の進化に向けた共同研究などを進めていきたい」と明かし、高度な取り組みにも挑戦していく方針だ。
 一方、「航空業界に興味を持ってもらえる学生と対面し、何かの研究課題のお手伝いができる場があれば積極的に講師を派遣していく」として東京外大との産学連携を続けることにも意欲を示した。ANAホールディングスの芝田浩二社長も卒業生で、中国語1982年卒。
 出席した外資系ITコンサルティング会社、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズの佐藤徳幸HR新卒採用部長は、採用してきた東京外大の卒業生が高いコミュニケーション力を生かして活躍していると紹介。IT企業、クレスコの平澤淳執行役員とともに出席したコーポレートサービス本部の榎本悠さん(ポーランド語2013年卒)は、育児と仕事を両立させてきた自身のキャリアを紹介した。
 会のプロデュースと司会を務めた藤田智子理事(ドイツ語1982年卒)は、サラダドレッシングやパスタソース、レストラン運営などを手がけるピエトロ(福岡市)の高橋泰行社長(ドイツ語1987年卒)に「学生食堂を大学のブランディングとして活用する事例もあるので、ピエトロのスパゲティを学食で食べられれば学生が喜びそうだが」と出店する可能性に水を向けた。しかし、春名学長は「大学の北隣に三井不動産の大型商業施設が建設される計画のため、学生や教職員は開業後には入居するテナントへ流れてしまうかもしれない」として出店を思いとどまるように促した。
 東京外語会の寺田朗子理事長(フランス語1975年卒、認定NPO法人国境なき子どもたち会長)は「大学は今後、大学院の教育プログラムの充実化をはじめとし、これまで以上に産学連携に取り組む機会を望んでいる。一方、外語会は皆様のような、多くの産業界で活躍している先輩たちや、協力していただける方とのネットワークがある」とし、今回の懇談会のような機会を通じて「教育界、産業界のこれからの展望を考えるひとときとなればと思う」と期待を込めた。

文・写真:共同通信社経済部次長・東京外語会広報委員・元理事 大塚圭一郎(フランス語1997年卒)

 同イベントにつきましては、外語会会報(2026年2月1日発行)に詳報を掲載致します。


東京外国語大学の春名展生学長(左)と、ANA総合研究所の森健明副社長(2025年10月4日、東京都港区で大塚圭一郎撮影)

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